バーチャル彼氏
「ねぇ、知ってる? 泉さんってゲームの中の異性にまで夢中になってるのよ。信じられないわよね、どういう神経してるのかしら――」


言い終わる前に、ガタンッ! と大きな音を立てて立ち上がっていた。


何かを考える余裕とか、周りを見る余裕とか。


そんなもの、なかった。


気付けば、エマの驚く顔が目の前にあって、それめがけて拳を突き出そうとしていた。


「ちょっと、タンマ」


今、まさにエマの可愛らしい顔に私の拳がぶつかろうとした、その瞬間。


強く握られた私の手首。


そこから前へは、ピクリとも動かない拳。


それらを見て、ハッと我に返った。


私、なに、しようとした?


力を込めていた手が、一瞬にして脱力する。


いくらエマが憎いからって、こんな教室で、エマの味方が沢山いる中で、殴ろうとした?


少し冷静になって考えて、体が震える。


向日葵の事をけなされた事が許せなくて、どうしても抑え切れなくて……。


でも、今殴っていたら、この前よりももっとヒドイ仕返しをされていただろう。
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