バーチャル彼氏
ギュッと握られたままの手首。


私は、その人物へと視線を移した。


「瀬戸君……」


「はいはい、瀬戸くんでぇす!」


瀬戸君はそう言っておちゃらけて笑って見せた。


その笑顔が、なぜか胸に突き刺さる。


エマに対してじゃなく、瀬戸君に対して申し訳ないと感じる。


「なんなの、この子っ! 私を殴ろうとしたわっ!!」


エマの悲鳴に似た声と共に、止まっていた時間が戻る。


サーッと血の気が引いていくのが分かる。


どうしよう……。


エマの悲鳴は、やがてクラスメイトのざわめきへと変わり、それは私へ向けての罵声に換わる。


離れた場所で、心配そうにこちらを見つめる桃子。


「この子、借りるね」


「え……?」
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