バーチャル彼氏
強引にファーストキスを奪われた事がショックで、声が震える。


足もガクガクと振るえ出したのは、キスがさっきよりも現実味を帯びてきたから。


「俺、泉のことが好きだ」


落ち着いた、一言。


低く、心地いい響き。


『俺、泉のことが好きだ』


その声が繰り返し流れている。


「バーチャル彼氏なんかやめて、俺にしときな? そうすれば、エマも泉にちょっかいなんてださねぇよ」


エマ……。


そうよ、エマだった。


「瀬戸君、エマのこと好きなんじゃないの? なんで、私……?」


その言葉に瀬戸君は目を見開いて驚き、それから髪をクシャッとかき上げた。


「あ~……。別に、俺はエマの取り巻きとは違うよ」


「でも、あのとき一緒にいたよね?」


私は、真っ暗な倉庫の中を思い出す。
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