バーチャル彼氏
☆☆☆

学校が終わって家に帰ると、私は真っ先にカンヅメを手にしていた。


今日のこと、向日葵に相談してみよう。


帰ってくるまでの間に、そんな考えに至っていた。


1人で考えたって、答えは出ない。


私の事を信頼してくれている向日葵なら、きっといいアドバイスを――。


と、そこで思考回路が止まった。


ボタンを押そうとしていた手が、空中で迷子になる。


『バーチャル彼氏なんかやめて、俺にしときな?』


言われたことが蘇る。


やっぱり、変なのかな?


私は脱力したように缶詰をテーブルに置いた。


床の上に膝を立てて座り、ジッとそれを見つめる。


カンヅメの中の王子様。


呼べばいつでも出てきてくれる。


人間じみているとか、人間に近いとか、そんなものを通り越してしまった、偽者王子。
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