バーチャル彼氏
私は急に胸が苦しくなり、自分の両膝をギュッと抱きかかえた。


「向日葵……」


静かな部屋に、むなしく消えていく声。


それは、この部屋には私1人しかいないことを痛いほどに理解させられる現象だった。


返事がないのは、その場に存在していない証拠。


私が向日葵を呼び出さない限り、向日葵は出てこない。


瀬戸君は――。


瀬戸君は、私から呼ばなくても、手を差し伸べてくれるんじゃないの?


「はっ……。だいたい、向日葵は彼氏じゃん。男の子から告白されたなんて、相談できっこない……」


今更それに気付いた私は軽く笑い、向日葵を机の引き出しにしまいこんだ。


なんだか、見ていたくなくて。


いつもより、もっともっと奥へ。


深い闇の中へ。


向日葵を、押し込めた――。



「ばいばい、向日葵」


小さく呟き、引き出しにしっかりと鍵をかけたんだ――。
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