バーチャル彼氏
ギリギリと、持っていたナフキンを握り締める。


「で、なんか用事?」


瀬戸君の言葉に、エマは大きく頷く。


「もちろん、彼の事で」


ボソッと呟くように言い、そして俯く。


え……?


その仕草と、斜めから見えるエマの真っ赤になった顔に、私は口を半開きにした。


なに?


エマが照れてる?


「わかった、じゃぁ場所を変えよう。泉ごめん。今日は送ってやれない」


「え? あ、うん……」


なにがなんやらわからないまま、私は店内に置き去りにされる。


ガラス張りの壁から外を見ると、まだ赤い顔をしているエマと瀬戸君が、手を握り合って歩いていく。


どういう事……?


胸の奥が、微かにうずく。
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