バーチャル彼氏
瞬間、私の頭の中は真っ白に染まる。


故障した時か、ゲールを降りた時。


小刻みに手が震え、持っていた缶詰が音も立てずに床に落ちた。


それって、どういう事?


もう、向日葵に会えないってこと?


そう理解すると同時に、今までの向日葵との思い出がウワッとあふれ出してきた。


言葉を理解してくれなかった向日葵。


一緒に喫茶店や水族館にも行った。


すごい記憶力を発揮してくれた向日葵。


心を開いて、今まで隠れていた意地悪な部分も見せてくれた。


そして……キスも、した。


「泉、バーチャル彼氏は、どこまでリアルに作られているとおもう?」


その問いかけに答えられず、私は首を振るしかなかった。


「バーチャル彼氏は、食べたり飲んだりしない。だけど、その分は彼女と会って、話をする事でおぎなっているのよ。


つまり――、バーチャル彼氏を何日も放置する時点で、それは飲まず食わずの人間と同じなのよ」


じゃぁ……向日葵は一週間も飲まず食わずで……?


だから、自分からゲームを降りたんだろうか?


それとも、故障?
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