バーチャル彼氏
「あんた、何勝手に人の『バーチャル彼氏』開けてんのよ!!」


「え? これお姉ちゃんのなの?」


「そうよ!! 他は開けてないんでしょうね!?」


そう怒鳴りながら袋の中を確認する。


そして、安堵のため息を漏らした。


「まぁいいわ。これ、あんたにあげようと思ってた『バーチャル彼氏』だから」


「へ……、私に?」


「そ。あんたもそろそろ男ってもんを知った方がいいと思ってね?」


そう言いながら、コップに注いだ麦茶を飲み干す。


「で、名前はつけたの?」


「あ、うん。向日葵っていうの」


少し照れながら言うと、お姉ちゃんは一瞬笑い出しそうになるのを我慢し、「ま、あんたらしいわね」と、言った。


「でも、つかい方とかわかんなくて――」


「エト……イズミ デス」


突然、向日葵が私の名前を呼んだ。


「なに、今の」


「あ、なんか間違って名前覚えたみたいで」


私が説明すると、お姉ちゃんは向日葵へ向けて「彼氏機能、一時停止」と、言った。


しかし、向日葵は何の変化も見せない。


「泉、バーチャル彼氏は、最初に名前をつけてくれた人物を彼女としてインプットするの。インプットするのはその人の声紋よ。つまり、あんたのいう事しか聞かない言って事」


そうなんだ……。


「さっきの、言ってごらん」
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