バーチャル彼氏
「うん」


向日葵の言葉に、私はキョロキョロと辺りを見回しながら答える。


さっきからカップルばかりが出入りしている……と、思っていたのだが。


よくよく見るとそれはみんなバーチャル彼氏だった。


コマのついた小さな台の上に缶詰を乗せ、それを引いて歩いているのだ。


な……なんだここ!!


ギョッと目を見開く私に、先ほどの受付の女性がコマのついた台を差し出してきた。


「では、お楽しみください」


満面の笑顔で私たちを送り出す――。


『バーチャル水族館』


って、こういう事!?


中へ入ると、そこには普通の水族館と同じように、水槽が並ぶ。


もちろん、魚も本物。


でも、それを見て回っているカップルたちは、皆異常。


女の子たちは自分のバーチャル彼氏へ向けて魚の説明をしている。


そして、館内に響き渡る「インプットしました」の、セリフ。


どうやら、ここはバーチャル彼氏に知識を教え込むための水族館らしい……。


私はカラカラと向日葵を引いて歩く。


これだけで、かなり異様な気分になる。


「泉」


「え? なに?」
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