バーチャル彼氏
呼ばれて、立ち止まる。


それと同時に、カラカラという音も止まった。


「あれ、なに?」


向日葵は微笑みながら、水槽の中の熱帯魚を見つめる。


綺麗なオレンジ色に、白い2本線。


カクレクマノミだ。


「綺麗だね……」


私は、そっと水槽に手を当てる。


向日葵もまねしてきた。


『バーチャル』という単語をのければ、これは普通のデートだ。


人生初の、デート。


そう考えると、突然胸のトキメキが激しくなる。


こ、こんなイケメンと、初デート!!


バクバクと、胸が苦しいほどに緊張してしまう。


「泉?」


向日葵が私の顔を覗き込む。


うっ……!


上目づかいはやばいって!!


少し不安そうな表情をかくしつつ、微笑む向日葵。


それは綺麗でかっこよくて、もう目の前の熱帯魚なんてどうでもいい。


耳まで真っ赤になる私。


「カ……カクレクマノミよ!!」


と、怒鳴るように言う。
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