バーチャル彼氏
「な……なんでもない!」


「泉、涙の痕は泣いたからできるんだよ? なんでもないなら、涙は出ない」


私よりも苦しそうな表情の向日葵。


やだ……。


そんな顔、しないでよ。


胸が思いっきり締め付けられる。


まるで、自分が向日葵を傷つけているような感覚だ。


「でも、なんでもないから。大丈夫」


そう言い、微笑む。


でも……向日葵は、それを信じてくれなかった。


向日葵は大きく首を振り。


「ちゃんと話して? じゃなきゃ、納得できない」


と、真剣な顔になる。


さっきからひっきりなしに指遊びをしているのは、困ったときの向日葵の癖だろうか……。


私はその手をそっと包み込む……素振りをする。


重ねられた手に反応して、向日葵がそっと手元を見つめた。
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