異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
 ブーーーっと開演のブザーが鳴り響く。会場の照明もフッと暗くなり明るく光るのはステージだけ。奏者達が次々と自分の席に座り準備を始める。私もオーボエを右手に、左手にイングリッシュホルンを持ってステージ上に上がった。


 ステージから見える二千の赤い座席は埋め尽くされている。こんなに多くの人に来てもらえたのは初めてだ。単純に嬉しい、そしてそれ以上に緊張する。集中的にライトが当たるので意外とステージ上は暑く、額にジワリと汗をかき始めた。


 こんなに大きなホールで演奏するのは学生の時のコンクール以来で、楽しみと緊張の余り身体の高揚感が抜ける事は無い。


 たくさんの人に私たちの音楽を聞いてもらえるこの機会を大切に、一曲一曲に魂を込めて演奏をした。


 二時間の演奏会はなんのトラブルもなくスムーズに終える事ができた。アンコールの曲を吹き切った後の程よい疲れと達成感が身体を奮い立たせる。
 なかなか鳴り止まない拍手を身体全体に浴び、自然と笑みが溢れた。それは私だけではない、隣の席の絵里さんも他の団員も全員が達成感に満ち溢れた素敵な笑顔だった。

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