異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
「あ〜、そろそろ羽根を交換しないとボロボロになってきちゃいました。リードも演奏会に向けて何本か新しいの買いたいしなぁ」

 手入れを終えパタンと楽器ケースを閉める。譜面台をたたみながらそろそろ楽器屋に行かないとなぁ、なんて考えていた。

「それなら俺がいくらでも買ってあげるよ、真緒」

 

――耳に響く心地の良いバリトンボイス。


 いや聞こえるはずがない。忘れられなくて会いたくて、幻聴でも聞こえてしまったんだろうか。


(やっぱり私重症なのかな……自分で逃げておきながら……)


「真緒」


 強くはっきりと名前を呼ばれた。


「……え?」
 

「真緒、こっちを向いて」


 フワリと優しい暖かさに包まれる。私はこの感覚を知っている。知っているからこそ驚いて声も出ない。あり得ない。彼が、総介さんがここにいるはずがない。
 そう思っているのに温もりが耳元に近づいてくる気配がする。
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