異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
「真緒、こっちを向いてくれないならキスをするよ」


 痺れるようなバリトンボイスが耳にそそがれ、驚きながらもゆっくりと振り返る。


「はぁ。やっと目が合った。見つけたよ、俺のお姫様」


 重なり合った視線は複雑に絡み合い逸らすことができない。


「総介さ……ん」


「下に車を待たせているんだ。真緒、もう俺から逃げる事は許さないよ。積もる話しもある、片付け終わったら一緒に帰ろう」


「え……あの、その……」


「君の荷物はこれで全部かい?」


 コクンと頷くと譜面台やバックを右手で持ち左手は私の右手を握る。思考回路が回らない。今私に起こっている事は現実なの? どうして目の前に彼がいるの?


「楽器は自分で持つだろう? さぁ行こうか」


「え、え、ちょっと……」


 顔も身体も熱いが特に握られている右手が燃えるように熱い。楽団全員の興味津々な視線が私を突き刺し身体が穴だらけになりそうだ。もちろん隣に座っていた絵里さんなんて目を見開いて驚いて音楽室を去っていく私をニヤニヤしながら手を振っていた。


(これ絶対皆んなに色々言われてるよ……) 

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