異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
 三階の真ん中席。ちょうど真ん中でオーケストラ全体を見渡せるベストポジションだ。もしかしてわざわざこの席でチケットを取ってくれたのかな……
 ぞろぞろと観客が増えてきたので自然と小声になる。小声になると総介さんの顔が私に近づいてくる。耳にダイレクトに彼の声が響き、ウィーンで初めて出会った時のあの衝撃と重なりなんだかクラクラしてきた。


「真緒、これ今日のパンフレットだよ。今日の楽団は有名な楽団だからね、真緒も知っているかも知れないけど」


「あ、ありがとうございます」


 顔は赤くなっていないだろうか……


 受け取ったパンフレットには有名なオーケストラ楽団の名前が載っていた。知っているも何も私の大好きな楽団で何枚もCDを持っている。今日演奏される曲目も好きな曲ばかりだ。


「トゥーランドット今日やるんですね。わたし大好きな曲なんです。もう心を抉り取られるようなぐっと胸にくる物がこの曲にはあるんですよね」


「俺も好きだよ」


「そ、そうなんですね」


 ――好きだよ。


 曲が好きだと言っただけなのに自分の事を好きだと言われたような優しい声で言う物だからバクバクと心臓が勢いよく動き出した。
 もうすぐ開演だ。ふぅと大きく息を吸って演奏に集中するべく総介さんの方を向くのはやめた。多分今の私の顔は、彼が、総介さんが好きだと書いてありそうだったから。私の気持ちはバレてはいけない。


 タイミングよくフッと照明が消え辺りが暗くなった。
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