異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
「なぁ長谷、俺はなぜロンドンにいるんだろうか」


 俺の右腕とも言える秘書の長谷智幸(はせ ともゆき)は運転席から冷淡な声で返事返してきた。


「仕事だからですよ」


 ロンドンのショッピング街を後部座席の窓から眺める。楽しそうに親子で買い物する人や、腕を組んでいるカップルを流し目で見ながら溜息が出る。羨ましいな……俺も真緒とあぁやって腕を組んでショッピングしたかったな。真央はチョコレートが好きだからあの店のチョコレートも美味いから食べさせてあげたい。きっと真緒なら美味しいと可愛い笑顔を俺に見せてくれるに違いない。そう思うとやはり溜息が出てしまう。


「なぁ長谷、俺はやっぱり振られてしまったのかな?」


「まぁ客観的にみれば振られたと思いますよ。付き合えないと言われたんですからね」


「なぁ、もう日本に帰りたいんだが帰れるかな?」


「無理ですね。まだこちらにきて一日経っていませんよ。あと二週間はロンドンです。仕事して下さい」


 長谷のキリッとした切長の瞳がバックミラー越しにギロッと睨みつけてくる。眼鏡をしているのにあの迫力だ。長谷に怯える社員も少なくはない。長谷は目つきが悪いだけで根は優しい奴なんだけれどな……
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