クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす


「私には、和優が必要です。きっと、取り戻します。」

「そんな事わからないだろう!」

いつもは穏やかな実影が大きな声で柊哉を非難した。

「お義父さん。」

「私が、どんな思いで君に和優を託したか…。」
「そんな特別な何かがあったんですか?」



暫く沈黙した後、実影は重い口を開いた。無理やり言葉を振り絞っているようだ。

「一年前…ガンが見つかったんだ。幸いアメリカで治療を受けて完治した。」

「それで結婚式の後、長期の出張に行くとおっしゃってたんですね。」
「私の病気が広まると経営に影響するからね。」

今さらのように実影をよく見ると、少し痩せたようだ。

「だから、私に何があってもいいように君に託したんだ。
 大切な亡き妻の忘れ形見を。」

「前にもお聞きしましたが…どうして自分が選ばれたんでしょう。」
「君は知らないだろうが、20年近く前に君を見つけたんだよ。」

「佐渡にいた頃ですか?」

「ああ、たまたまね。海を見たくて佐渡に行った時に君を見かけたよ。」
「民宿に泊まられたんですか?」

「いや、釣りをしていたんだ。母上の手伝いやら市場の荷物運びやら…
 あちこちで働いている君を見かけたよ。」

「お恥ずかしい…父が亡くなってから必死でしたから。」

「君は生命力というのか…力が(みなぎ)っていた。羨ましかった。」
「馬鹿力があったんでしょう、若かったので。」

「だから、東京で再び君を知った時、起業したばかりの君の会社に賭けたんだ。」

「お陰様で…、ちっぽけな会社が業界で生き抜くことが出来ました。」

「君にわかるかい?妻を亡くして、大切な娘に病が見つかって…
 やっと娘が大人になったと思ったら、今度は自分が病気になるとは…。」


「お義父さん。」





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