クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
お互いを知らぬまま…
すぐには、無理だ。
私達は、まだ結婚して半年しかたっていない。
『婚約したのは…一年前の大学4年の秋だった…』
普段は出張ばかりで留守がちな父親に、いきなりホテルに呼び出された。
そして、『本間柊哉がお前の結婚相手だ』と告げられたのだ。
その場に同席していた彼の、浅黒く日焼けした肌の色にまず驚いた。
長めの髪は黒々としていて、少し癖があるようだ。
背も高く、180センチ以上はあるだろう。堂々とした体躯だが表情は硬かった。
『本間柊哉です。』
軽く会釈した彼に、ぼんやりと見とれていた。
『まるで、野獣のようだ…。』
160cmに届かない和優の身長では見上げる程大きく見えた。
これまで見た事もない逞しい男だった。
『高遠和優です。なゆは平和の和に、優しいと書きます。』
『いい名前ですね…。』
その一瞬だけ、彼が微笑んだような気がした。
あれから今日まで、和優は彼がほんの少しでも笑う姿を見た事が無い。
携帯に、着信があった。
ハッと現実に引き戻された。
『何を考えていたのかしら…。』
夫の笑顔が見たいなんて…、あり得ないのに。