クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす


 一年前、高遠社長から是非にと請われて、一人娘との縁談を持ちかけられた。
女に縛られたくなかったし、結婚なんてするつもりも無かったのだが、
『まあ、この年になったら結婚もいいかな』と軽い気持ちで受けてしまった。

受けた以上、責任はあるが…。
高遠社長の話を聞けば聞く程、その娘と結婚していいのか迷ってしまった。

何でも、亡くなった奥さんが命がけで産んだ一人娘らしい。
その子には心臓に病気があり、二度の手術で奇跡的に元気になったそうだ。

泣きそうな顔で娘が元気になるまでを話す社長に、何度も確かめた。

『そんな大切な娘さんの相手が、自分でいいのか』と。

高遠社長は、何があっても娘を守れそうな人物に任せたいと譲らなかった。

『これからの時代何が起こるかわからない。君の才能と経営手腕があれば、
 もし高遠ホテルや私自身に何かあっても和優を守ってくれるだろう。』

俺に、父親代わりになって娘を守れと言われている気がした。

そして…和優と初めて会った日。


美しく、儚く、自分の目の前に現れた和優。
これが同じ人間かと思ったら、口を開いて透き通るような声で喋った。

高遠和優(たかとうなゆ)です。なゆ(・・)は平和の和に、優しいと書きます。』

シャイなのか、彼女は俯き加減でほんの少し微笑んでいた。


それなりに女遊びをしてきた男が、一瞬で恋に落ちたのだ。
30過ぎた男の、純情な恋だった。




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