クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
だが、和優は真逆の事を考えていた。
『良かった、お別れする前に一度手料理を食べてもらいたかったもの。』
あっという間に完食した柊哉は、着替えるとすぐに仕事へ行ってしまった。
『台風みたいだったわ…。』
昨夜突然帰ってきて、一晩だけ泊って、朝食を食べて出て行った夫。
『ここはビジネスホテルかしらね…。』
和優の口からフフッと思わず笑いが零れた。
どちらかと言えば無表情な和優が、柊哉の行動にだけは心が動く。
彼を見て驚いたり、彼の前で緊張したり、面白がったり…。
キッチンを片付けていたら、家政婦の田辺安子が出勤してきた。
「おはようございます、奥様。」
「田辺さん、おはようございます。今日もよろしくね。」
「ご朝食は…奥様が?」
「ええ、旦那様が昨夜お帰りになったの。」
「さようでございますか、よろしかったですね。」
「そう?」
めったに夫婦の事に口を挟まない田辺が、少しホッとした顔を見せた。
他人から見ても、自分たち夫婦の関係は危ういのかもしれない。
それも、あと少しだ。
別れる準備を始めよう。
それまでに、したい事としておかなくてはいけない事をよく考えておこう。
その一、これ以上好きにならない。
その二、手料理を食べてもらう。
それから…