クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
「和優、こんなとこで何してるんだ!」
突然、大きな声で怒鳴ってきたのは里見宏輔だった。
「宏輔さん…。やだ、びっくりしたわ。」
「こいつは?」
「宏輔さん、失礼よ。水口涼真君。私の昔からのお友達なの。」
「友達?」
宏輔は胡散臭そうに、金髪の涼真を見ている。
「涼くん、こっちは私の遠い親戚なの。里見宏輔よ。」
「初めまして、水口涼真です。」
「里見です…。」
「宏輔さんは勤務時間中でしょ。どうして新宿にいるの?」
「お客様にご挨拶に伺う手土産を…。和優こそ、大丈夫なのか?
街の中をフラフラ、こんな男と出歩いて。」
「こんなって…失礼よ。私、彼の家族にはとってもお世話になったの。」
「へえ~。」
「和優ちやん、ボクはもう行くから。」
「ゴメンね、涼くん。またね。」
「うん。バイバイ。」
名残惜し気に涼真を見送る和優を、宏輔はじっと見つめていた。
和優が夫の柊哉と二人でいるところなど結婚式以来、見た事が無かった。
夫婦で出かけているという噂すら聞いた事が無い。
近頃では、父親にあんな男と無理に結婚させられて可哀そうだと思うくらいだ。
だが今日の和優はリラックスしていて、とても楽しそうに見える。
『水口涼真。少し年下みたいだったな…。』
昔からの仲がいい男友達がいたとは思ってもみなかった。
宏輔には自分こそが、和優の一番近くにいるという自信があったのだが…
その心は和優の表情を見て揺らいでいた。
自分といる時だって、和優の表情はあまり動かない。
アイツがどうやって和優から笑顔をひきだしたんだろうか。
里見宏輔は納得出来る答えが欲しかった。