クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
笑顔の似合う小柄な女性が和優の方を振り向いて、声を掛けてくれた。
ショートカットで丸顔が強調されているが、人懐こい笑顔が魅力的だ。
つい無表情になってしまう和優とは対照的な性格の人なのだろう。
柊哉がリラックスしているのも無理はない。
「いえ、どうぞお話を続けて下さい。」
「本間君、こちらのきれいな方は?」
パン職人風の男性も和優が柊哉の連れと気付いたのか、気にしてくれている。
「…和優…自分の妻です。」
「ええっ!」
細身の男性と丸顔の女性の声が重なった。
「つ、妻って…いつの間に結婚したんだい?」
「なんで教えてくれないのよ!」
二人に責められて、柊哉はたじたじだ。
「だから…今日、挨拶しようと思って…。」
「来るときにそんな事言ってなかったじゃあないか。」
「そうよ、言ってくれたら色々歓迎の準備したのに…。」
女性の方は涙声だ。
二人の結婚について、こんなに真剣になってくれる人がいた事に和優は驚いていた。
「あの、申し訳ございません。ご挨拶が遅れまして…。」
「いいのよ、奥さんを責めてるわけじゃないの!」
「気にしないで下さい。どうせコイツがずぼらなんでしょうから。」
「そうですよ、相変わらず気が利かないんでしょうし。」
口々に二人から零れる言葉は、普段の柊哉からは想像できないものばかりだった。
『ずぼら?気が利かない?』
和優が知らなかった柊哉の一面かも知れない。
「酷いな、二人揃って…。」
柊哉がぼやくのを、その時初めて和優は聞いた。