クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
午前10時過ぎが、焼きたてのパンを求める客で店が混む時間の様だ。
柊哉と和優は廊下側にあるカフェで客足が落ち着くまで待つ事にした。
丸顔の女性が、温かい淹れたてのコーヒーを運んできてくれた。
「せっかく来て下さったのに、お待たせしてごめんなさい。」
「いえ、お忙しい時間にすみません。」
和優が遠慮がちにカップを受け取ると、女性はジトっと柊哉を睨んだ。
「もう、奥さんに気を遣わせて…。」
ひと言嫌味を言ってから、女性は接客に戻って行った。
香りのいいコーヒーを飲みながら、和優は柊哉に尋ねてみた。
「昔からのお知合いなんですか?」
「ああ…、そうだな。随分前に篠塚さんとは知り合った。」
柊哉がポツリポツリとこれまでの経緯を話すのを聞いてみると、
篠塚健一と知り合ったのは柊哉が実家の佐渡にいた頃だったらしい。
柊哉はまだ高校生になったばかり。健一もパン職人として独り立ちを目指していた頃だ。
天然の酵母でパンを作りたいと思っていた健一は
パン作りに適した場所を求めて全国をバイクで旅していたそうだ。
空気、水、天候…。
中々思うような場所に巡り合えず、佐渡島に渡った時に体調を崩してしまった。
その時に健一を見つけて世話をしたのが柊哉の母、春子で、
民宿でしばらく家族のように暮らしたと言う。
「篠塚さんも若かったからな。」