クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
柊哉はこれまでも年に一度はここに顔を見せに来ていたそうだが、
今回は仕事も兼ねているらしい。
『パンの店』では、健一が作る天然の酵母菌を使ったパンの素朴さが受けて、
遠くから車で通い詰めるファンもかなり増えた。
長距離をわざわざ来てもらうのは申し訳ないと、通信販売も始めている。
麻美がお得意様から電話を受けて、聞き取った内容で注文書を作り
それからパンを発送するという手間のかかる作業だ。
だが、もっと多くの人に『パンの店』の味を楽しんでもらいたい…。
そう考えた篠塚夫妻が柊哉に手助けを求めて来た。
職人も増えたので、インターネットでの販売を始めたいと。
「バイタリティーがあって、ステキなご夫婦ね。」
「ああ…。」
「是非、お力になってあげなくちゃ。」
「ああ、そのつもりだ。」
コーヒーを飲み終えた和優は、カップを片付けようとカフェのキッチンへ向かった。
すると、アルバイトの女の子が客の多さにあたふたしていた。
商品を並べたりレジに立ったり、カフェの客の応対もしなくてはならない。
「ごちそうさまでした。」
「あ、お粗末様でございました…。」
「ウフフ、いつも通りに話して下さいな。」
「は、はいっ。」
「何か、お手伝いさせてもらえませんか?」
「まさか、奥様に手伝っていただくなんて…。」
女子高校生だろうか、純朴そうな少女は顔を赤く染めていた。
「これでも、少しは出来ますの。洗い物も得意です。」
モスグリーンのシャツの袖をたくし上げて、和優はコップを洗い始めた。