クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
柊哉がこの旅を決めたきっかけは、家政婦の田辺安子の言葉だった。
彼女には松濤の洋館を取り仕切ってもらうだけでなく、
和優が不自由なく過ごせているか柊哉への報告も頼んでいたのだ。
『和優様と、ご一緒に過ごす時間をお作り下さい。』
和優がホストクラブ通いをしているのは知っていたが、咎める気は無かった。
気に入った若い男がいるのなら、少しくらいなら遊んでも構わない。
自分といるより楽しく過ごせるなら、むしろその方が良いと柊哉は思っていた。
だが、田辺の見方は違った。
『きっと、お寂しいのでしょう。』
どれほど自由になるお金があっても、遊ぶ場所があっても
和優の住む世界はあまりにも孤独だ。
『お父様とも滅多にお会いできませんし、旦那様は…。』
無言で田辺は圧力をかけてきた。
『一度、ゆっくり奥様と過ごしてみて下さいませ。』
『奥様は、かつてはお身体が弱くてご心配だったでしょうが
近頃はお元気そうです。私にもお優しいですし、気配りの出来る方です。』
安子は和優と接して良く話しているから、情が湧いたのだろう。
雇い主の柊哉より、和優の方が主だと言わんばかりだ。
『和優様が大切なら、きちんと妻として扱って差し上げるべきです。』
田辺はもっと柊哉に言いたそうだったが、そこで口を噤んだ。
きっと察しているのだ。
柊哉が和優を大切に思い過ぎて、触れる事すら出来ずにいる事を…。