クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
残念だが、柊哉とはあの小旅行以来ロクに会っていない。
あの翌日、松濤の家に和優を送り届けると、柊哉は仕事に行ってしまった。
夫が滅多に家に帰って来ない生活に戻ってしまったのだ。
優しく触れてくれたから、もしかしたらと和優は期待していたのだが…。
『きっと、私と夫婦生活をする気が無いんだわ。』
夜の営みさえ満足に出来ない妻なんか、必要無いはずだ。
それでも離婚を言い出さない夫には、何か思う所があるのだろうか。
『父と、何か約束でもしているのかしら…』
あの夜は、柊哉が少しでも自分を女として見てくれたのが嬉しかった。
彼から教えられた悦びは、想像以上に和優を夢中にさせたのだ。
だが、それだけだった。
篠塚の家の離れで目覚めた朝の気まずい雰囲気のまま、夫婦に変化はない。
あんなに近くで体温を感じていたのに、松濤の家では一人ぼっちだ。
『別れる為に、また一つ始めるのよ…』
彼と別れても、生きる為に必要な何かを考えよう。
パン作りは未知数だが、仕事や趣味に繋がるかもしれない。
その一、これ以上好きにならない。
その二、手料理を食べてもらう。
その三、嫌われよう。
その四、仕事を探そう。
そして、どこか自分の居場所を探したい。自分の力で生きてみたい。
父や柊哉の助けが無くても暮らして行けたら…。
その時こそが、別れる時だ。