クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
荒波
同じ頃、柊哉は佐渡島の実家に帰省していた。
元は網本の家だった実家は、どっしりとした梁や大黒柱が支える大きな家屋だ。
風雪に耐えて来た趣があり、釣り客や観光客から人気の宿だ。
「悪かったねえ、年の瀬で忙しい時に。」
「いや、こっちこそ。いつも母さん一人にして悪いと思ってる。」
家族のスペースになっている座敷で、柊哉は母の春子と差し向かいで飲んでいた。
「あんたが大学へ行った時から覚悟してたから、気にするんじゃないよ。」
「母さん…。」
飲みやすい地酒のせいか、母も饒舌になっていた。
「あんたが社長さんになるなんてねえ…お陰で仕送りまでしてもらって…」
「それくらい、気にしないでくれ。」
「家の補修費用に充てさせてもらってるよ。美人の奥さんにもよろしく言っとくれ。」
「ああ…。」
母は冷で飲んでいる。柊哉もそれに倣った。
「帰ってきてもらったのは、この民宿に事なんだ。」
「ここが、どうかしたか?何処か壊れたのか?」
「いやいや、そうじゃないよ。後継ぎのことさ。」
「ここを俺は…。」
「あんたじゃないさ。」