クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
「もともと、あたしの父親が経営していたからね。父親が亡くなった後、
ここの名義はあたしと兄の二人になってたんだ。」
「そうだったのか…。」
「兄さん…いや、あんたから言えば伯父さんの所の貴洋を覚えてるかい?」
「ああ、俺より三つ年上だな。確か日本料理の店で修行しているって聞いてたが。」
「貴洋がこっちへ帰ってきて、民宿を継いでもいいって言ってくれたんだ。」
「えっ?」
「あたしにも、このまま手伝って欲しいって言ってくれてね。」
「そうか…。」
「いい話だろ。相続の事とかお金の話はこれからだが。」
「決めたのか?」
「ああ。もう決めた。あんたに相談しなくて悪かったけど、
最終的に弁護士とか司法書士とか、難しい事はお前に任せたいんだよ。」
「母さん…。」
「お前は東京で、奥さんと二人で…自分達の道を生きていけばいいさ。」
「すまない…。東京に来てくれてもいいんだが…。」
「あたしは、ここで生まれてずっとここで生きてきたからね。
何処にも行きたくないよ。」
「わかってる。」
「ああ、でも孫の顔は見たいねえ…。」
「それだけは、すまない。」
「あんたが謝る事じゃないさ。」
「和優には、言わないでくれよ。」
「…それくらい、わかってるよ。」
「ありがとう、母さん。」