クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
金子理江が家にいるだけで、和優の心はざわざわする。
それというのも、家の中が落ち着かないからだ。
理江は、食事や洗濯といった身の回りの事の一切を田辺に任せたまま、
昼頃まで寝ているかと思えば、『仕事探し』と称して午後になってから出かける。
帰宅はいつも夜10時を過ぎてからだ。
「本気でお仕事を探されているんでしょうか…。」
「下着までポイっと洗濯に出されましても…。ご自分でなさらないんでしょうか?」
いつも穏やかな田辺までが、理江の愚痴を言う様になった。
柊哉は理江がいるのが気になるのか、松濤の家に時々帰ってくるようになった。
夕食前の事もあれば、深夜になる事もあるが、結婚してから始めてだ。
ついこの前など、和優はどの部屋を使っているのかと尋ねられた。
「主寝室の隣を使っています。」
「なぜ、広い主寝室を使わないんだ?」
「旦那様がいないのに、私だけが使っていいものか迷ったので…。」
「そうか…。」
「どうぞ、柊哉さんだけでお使いください。」
「ああ。だが…。」
「理江さんは生活リズムが違うので私達が別の部屋だってわからないと思います。」
柊哉は、理江の口から夫婦仲について母親に告げ口されるのを恐れているんだろう。
「短い間なら理江さんも気付かないし、大丈夫でしょう。」
「そうだな。」
それっきり、寝室について聞かれる事は無かった。