クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
 

 翌日、涼真の住むコーポまではいつも通り和優が迎えに行った。
そこから涼真の運転で、館山の水口家に向かう。

首都高速から東京湾アクアラインを通ると一時間半もあれば館山に着く。

この道が、和優は大好きだった。
長いトンネルを抜けた先には海が広がっているのだから。
『出口』に向かって走り抜ける爽快感はたまらない。



館山市の郊外には大きなショピングモールもあるが、涼真の実家『水口パン』は
駅に近い昔ながらの商店街の中にある。

商店街に面した細長い建物で、道路側に店があり、その奥が工房だ。


「ただいま~。」
「おじゃまいたします。」

自動ドアが開くと同時に、涼真と和優の声が重なった。


「いらっしゃい!和優ちゃん!」
「お久しぶりです。おばさん。」

「あんた!和優ちゃんが着いたわよ!」

涼真の母、妙子(たえこ)が奥に向かって大きな声で叫んだ。
ゆっくりと店主の幸三(こうぞう)が店に出て来る。

「やあ、いらっしゃい。」

「おじさん、こんにちは。」
「元気そうだねえ。」
「キレイになって…!」

水口夫妻は帰省した息子そっちのけで、和優を囲みあれこれ話しかける。

「親父、お袋、和優ちゃんを座らせてやってくれ。」
「ああ、そうだったね。車で疲れただろ。」
「汚いとこだけど、上がって上がって。」

店舗を出てから横に回ると、小さな玄関があり水口家の居間に続いていた。




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