「お前は一人でも大丈夫」ですって?!~振る際の言葉にはご注意下さい。
もう一度、玄関のチャイムが鳴り響き、千夏は慌てて玄関の扉を開くと、そこに若い男の子が立っていた。
「ハウスキーパーさん?ごめんなさいね。どうぞ中に入って」
ギョッとした顔の男の子を部屋の中に通すと、戸惑いながらも部屋の中に入ってくる。明らかに泣いた後だとわかる千夏の顔に驚いているのだろう。千夏は平静を装いハウスキーパーの男の子に声をかけた。
「ハウスキーパーさん。名前は?」
千夏が尋ねると、辺りをキョロキョロと見渡していたハウスキーパーの男の子は、ハッとした顔をした後、千夏の質問に答えた。
「あっ……俺……陽翔です」
陽翔(はると)と名乗った男の子は何故か少し慌てていた。
男の子のハウスキーパーなんて珍しい。近くにある大学の学生さんかしら?学生なら自分の好きな時間に出来るハウスキーパーの仕事はやりやすいのかも……。
「陽翔くん。来て早々悪いんだけど、掃除は良いから何かつまみになる物を作ってくれる?」
「えっ……あっ、はい。良いですよ。冷蔵庫開けますね」
そう言って冷蔵庫を開け首を捻ると、陽翔はクラッカーの上にカッテージチーズを乗せ、生ハムやプチトマトを綺麗に飾りカナッペを作ってくれた。
5分と経たずに一品目が千夏の前に置かれる。
「チーズとクラッカーがあったのでカナッペにしてみました」
千夏は早速カナッペをつまみ口に入れると、自分で用意した赤ワインを喉に流し込む。口の中でチーズとワインが混ざり合い鼻から抜ける。最高に美味しい。チーズとワインは最強の組み合わせだ。
「んーー!!最高!!」
先ほどまで沈んでいた気持ちが、幾分上がったような気がした。
こういう時は、美味しい食べ物と、美味しいお酒に限る。
その後も陽翔は「こんな物しか作れませんが」と言いながらアボカドのサラダにオムライスなどを作ってくれた。料理をしながら使ったフライパンなどの洗い物を片付けていく陽翔。千夏が食事をしている間に今度は、ソファーの上に乱雑に置かれた服やコートをハンガーに掛け、フローリングに散らばった雑誌や広告などをまとめてラックに入れる。あまりの手際の良さに見惚れてしまう。
「さすが、プロねぇー。あっという間に片付いちゃったわね」
「これぐらい普通ですよ」
普通か……。
「……それが私には難しい」