ふんわり王子と甘い恋♡



声は……掛けないようにした。


元々自分からなんて、掛けられてなかったけど。


でも、がんばった。



風が強い日に、自転車に無理矢理乗って帰るフワリくんを見ても。


菊地先輩と、熱々の肉まんを買ってるフワリくんを見ても。


大きなあくびをしながら、朝の玄関で上履きを履いている姿を見ても。


コーヒー牛乳じゃなくて、コーラを飲むフワリくんを見ても。


あの日、一目惚れをした渡り廊下で……


あのときみたいに、空を見上げてる横顔を、見ても。



声は……掛けない。



彼女と歩く姿を見ても、平気でいられるように。


笑っていられるように。


そのためにも……声は掛けない。



だけど。


やっぱり。


見かけるたびに実感するのは、恋する想い。


だってやっぱり、フワリくんを忘れることなんてできない。


名前を呼ばれなくても、目が合わなくても、みんなの中の1人でも。


彼女が……いても。


簡単に忘れられる恋をしたわけじゃないから。


今でも毎日、泣きたいくらい好きだから。


だって今も目で探すのは、大原先輩だけ。


教室を出て、探してる。


廊下を歩きながら、探してる。


学食の中で、探してる。


私の目はいつだって……大好きな人の優しく笑う横顔を、探してる。


いつだって足を一歩踏み出せば、私の目は大好きなあの人を探してる。


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