揺れる群青

「花菱さんと加賀美を別れさせへん?」

早瀬さんを呼び止めて開口一番そう告げた。
少しつり目気味の彼女の目が更に引き上がった。

「……どういうこと?」
「俺、花菱さんのこと好きなんよ」
「それで?」
「……早瀬さんは加賀美のこと好きやろ?」

一瞬揺れた視線。
俺の目は誤魔化せない。

「そんなこと、」
「そんなこと無いなんて言わせへん。よく加賀美のこと見てるやん。色んな感情篭ったドロドロした目。バレバレやで?」
「……別れさせるなんて、無理でしょ」

あの2人は婚約してるんだよ。

1週間前、校内中を駆け巡った大ニュース。
高校生にして婚約なんて、どこの少女漫画だ。
けれどそれが有り得てしまう。
大企業の息子である加賀美と、ここ一帯の地主の娘である花菱さん。
昔の風習が残るこの辺り地域では家と家の繋がりを大事にする。
2人の婚約は何らおかしいことでもなかった。
オマケにお似合いの美男美女。

「2人もまんざらじゃなさそうだし」
「せやだけど、急に婚約なんてナシやろ」
「でも、加賀美とは友達でしょ?」
「友達やで?でも、」

友情(それ)恋愛(これ)とは話が別。

「……藤原くんって、結構腹黒いのね」
「そう?」

早瀬さんは一度目を伏せたあと、俺に向き直った。

「どうしても別れさせるの?」
「もちろん」
「……少し、考えさせて」

そう言って早瀬さんは足早に去っていった。
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