もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
「……っ!」
急に寒気がして身体が大きく震えた。
その衝撃で涙が溢れて、洗面台に数粒が落ちる。溢れ落ちた涙は、蛇口から流れ出る水と共に排水溝に消えていく。
「……もう、解放しなきゃ」
楓さんを私から解放しよう。楓さんに私は相応しくない。成り行きで契約結婚した私は、取り返しがつかなくなる前にここで身を引くべきだろう。楓さんは優しいから、私の想いに答えてくれただけ。
いつまでも私の我が儘に付き合わせるべきではないし、いずれは付き合ってくれなくなる。そうなる前に楓さんの前から消えてしまおう。
大丈夫。離婚届を送ってきた楓さんの真意を知れて、指輪を貰えただけで、もう充分満たされている。
当初の契約結婚の予定通り、目的を果たしたのなら別れよう。幸いにして楓さんが送ってきた離婚届を持って来ている。日本に帰ったら真っ直ぐ区役所に行って、離婚届を提出しよう。こういうのも勢いが大切だから。
「楓さんのおかげで私は強くなった。……もう一人でも大丈夫」
小声で呟くと、鏡に映る自分の顔を指でなぞる。
好きだからこそ距離を置く。遠くから楓さんの活躍を祈り、見守ろう。弁護士として活躍する楓さんの姿を――。
私は蛇口を閉めて手を拭くと、バスルームを後にする。
明け方の外が白み始めたリビングルームに入ると、近くにあったメモパットからメモ用紙を一枚破ると、近くにあったボールペンを借りてペンを走らせたのだった。
しばらくして書き終わると、ペンを元の場所に戻す。
「ありがとうございました。そして――さようなら」
左手の指輪を外すと、メモ用紙と一緒にテーブルに置く。
――もしも、願いが叶うのなら、一度でいいから言われたかった。
楓さんの口から、好きと、愛している、と言われたかった。もしかしたら、起きたら言ってくれるかもしれない。でもそれを聞いたら、私の決心は鈍ってしまう。
離れたくないと――別れたくないと、楓さんの元に戻ってしまうだろう。
あの大きくて、温かい、まるで羽毛に包まれているかの様に心地良い楓さんの腕の中に――。
指輪とメモを目立つ様にテーブルの上に置き直すと、なるべく音を立てないに椅子から立ち上がる。
楓さんが起き出す前に行動に移そうと、寝る前にリビングルームに運んだ荷物に近くと、スーツケースの前に座る。
「良かった。昨日の内に荷造りをしておいて」
そうじゃなければ、今頃楓さんが起き出す前に、慌てて荷造りをする羽目になっていた。
一度だけベッドルームを振り返ると、小さく笑みを浮かべる。
そうして、着替えが入っているスーツケースのファスナーを開けたのだった。
急に寒気がして身体が大きく震えた。
その衝撃で涙が溢れて、洗面台に数粒が落ちる。溢れ落ちた涙は、蛇口から流れ出る水と共に排水溝に消えていく。
「……もう、解放しなきゃ」
楓さんを私から解放しよう。楓さんに私は相応しくない。成り行きで契約結婚した私は、取り返しがつかなくなる前にここで身を引くべきだろう。楓さんは優しいから、私の想いに答えてくれただけ。
いつまでも私の我が儘に付き合わせるべきではないし、いずれは付き合ってくれなくなる。そうなる前に楓さんの前から消えてしまおう。
大丈夫。離婚届を送ってきた楓さんの真意を知れて、指輪を貰えただけで、もう充分満たされている。
当初の契約結婚の予定通り、目的を果たしたのなら別れよう。幸いにして楓さんが送ってきた離婚届を持って来ている。日本に帰ったら真っ直ぐ区役所に行って、離婚届を提出しよう。こういうのも勢いが大切だから。
「楓さんのおかげで私は強くなった。……もう一人でも大丈夫」
小声で呟くと、鏡に映る自分の顔を指でなぞる。
好きだからこそ距離を置く。遠くから楓さんの活躍を祈り、見守ろう。弁護士として活躍する楓さんの姿を――。
私は蛇口を閉めて手を拭くと、バスルームを後にする。
明け方の外が白み始めたリビングルームに入ると、近くにあったメモパットからメモ用紙を一枚破ると、近くにあったボールペンを借りてペンを走らせたのだった。
しばらくして書き終わると、ペンを元の場所に戻す。
「ありがとうございました。そして――さようなら」
左手の指輪を外すと、メモ用紙と一緒にテーブルに置く。
――もしも、願いが叶うのなら、一度でいいから言われたかった。
楓さんの口から、好きと、愛している、と言われたかった。もしかしたら、起きたら言ってくれるかもしれない。でもそれを聞いたら、私の決心は鈍ってしまう。
離れたくないと――別れたくないと、楓さんの元に戻ってしまうだろう。
あの大きくて、温かい、まるで羽毛に包まれているかの様に心地良い楓さんの腕の中に――。
指輪とメモを目立つ様にテーブルの上に置き直すと、なるべく音を立てないに椅子から立ち上がる。
楓さんが起き出す前に行動に移そうと、寝る前にリビングルームに運んだ荷物に近くと、スーツケースの前に座る。
「良かった。昨日の内に荷造りをしておいて」
そうじゃなければ、今頃楓さんが起き出す前に、慌てて荷造りをする羽目になっていた。
一度だけベッドルームを振り返ると、小さく笑みを浮かべる。
そうして、着替えが入っているスーツケースのファスナーを開けたのだった。