もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
さようならを言うつもりだったのに……
「小春ー!」
遠くから聞き馴染んだ声が聞こえてくる。
意味もなく電源を切ったスマートフォンを見ていた私はそっと顔を上げると、薄手のジャンパーのフードを目深に被った。寒かったら着ようと思って日本から持ってきたジャンパーが、こんな形で役に立つとは思わなかった。
スマートフォンを仕舞って、近くに座る外国人の団体に紛れる様に座っていると、楓さんの声がだんだん近づいてきたのだった。
「小春! 小春っ!」
身を縮めてバレない様に息を詰める。ここで名乗り出てしまったら、楓さんの元を飛び出した意味が無くなってしまう。
(もう解放するんだ。楓さんを私から――)
その時、アナウンスが空港内に鳴り響く。壁に掛かった時計を確認するが、搭乗予定の日本行きの飛行機にはまだ時間が早かった。恐らく、他の場所に行く飛行機だろう。
「小春ー!」
遠くでエレベーターを駆け上って来た楓さんの姿が見えた。
ますます身を縮めて、持っていたスーツケースごと隣に座っている外国人の陰に隠れた時だった。周囲に座っていた外国人の集団が立ち上がると、何か話しながら搭乗口に行ってしまったのだった。
(えっ……!? ど、どうしよう……)
遮るものが無くなったので下手に動くと、却って目立つかもしれない。そうやって迷っている間も、楓さんの声が近づいて来ていたので、ますます身動きが取れなくなる。
「小春ー!」
楓さんの声がすぐ側で聞こえてくると、息を潜めて、フードを被った頭ごと俯く。心臓が激しく音を立てて、口の中が渇いた。わずかながら手も震えている様な気がして、強く握りしめる事で隠そうとした。
(お願い。早くあっちに行って……!)
楓さんの靴音だけが妙に響いているような気がして、息を凝らしていると、私の目の前で誰かが立ち止まる。顔を上げる間もなく、それが楓さんだと分かると、ますます身を縮めて、早く通り過ぎる様に祈り続ける。
祈りが通じたのか、やがて無言のまま、楓さんはその場から去って行った。ほっと肩の力を抜いたのも束の間、すぐ真後ろの席に誰かが座った音が聞こえてきたのだった。
遠くから聞き馴染んだ声が聞こえてくる。
意味もなく電源を切ったスマートフォンを見ていた私はそっと顔を上げると、薄手のジャンパーのフードを目深に被った。寒かったら着ようと思って日本から持ってきたジャンパーが、こんな形で役に立つとは思わなかった。
スマートフォンを仕舞って、近くに座る外国人の団体に紛れる様に座っていると、楓さんの声がだんだん近づいてきたのだった。
「小春! 小春っ!」
身を縮めてバレない様に息を詰める。ここで名乗り出てしまったら、楓さんの元を飛び出した意味が無くなってしまう。
(もう解放するんだ。楓さんを私から――)
その時、アナウンスが空港内に鳴り響く。壁に掛かった時計を確認するが、搭乗予定の日本行きの飛行機にはまだ時間が早かった。恐らく、他の場所に行く飛行機だろう。
「小春ー!」
遠くでエレベーターを駆け上って来た楓さんの姿が見えた。
ますます身を縮めて、持っていたスーツケースごと隣に座っている外国人の陰に隠れた時だった。周囲に座っていた外国人の集団が立ち上がると、何か話しながら搭乗口に行ってしまったのだった。
(えっ……!? ど、どうしよう……)
遮るものが無くなったので下手に動くと、却って目立つかもしれない。そうやって迷っている間も、楓さんの声が近づいて来ていたので、ますます身動きが取れなくなる。
「小春ー!」
楓さんの声がすぐ側で聞こえてくると、息を潜めて、フードを被った頭ごと俯く。心臓が激しく音を立てて、口の中が渇いた。わずかながら手も震えている様な気がして、強く握りしめる事で隠そうとした。
(お願い。早くあっちに行って……!)
楓さんの靴音だけが妙に響いているような気がして、息を凝らしていると、私の目の前で誰かが立ち止まる。顔を上げる間もなく、それが楓さんだと分かると、ますます身を縮めて、早く通り過ぎる様に祈り続ける。
祈りが通じたのか、やがて無言のまま、楓さんはその場から去って行った。ほっと肩の力を抜いたのも束の間、すぐ真後ろの席に誰かが座った音が聞こえてきたのだった。