フヘンテキロマネスク
「ふたりともそんなに迷ってるの?それならおすすめ教えてあげるよ〜」
「ちょ、ちょっと翔くん!空気読もうよ!」
「え?空気?なんで――――ってあれ、もしかしてなんかお取り込み中だった?」
鈴本くんの言葉に何も返せないでいるうちに、いつまでも注文しない私たちを不思議に思ったらしい翔さんが声をかけながら近づいてきた。そしてその後ろを慌てたようにパタパタと追いかけてくる麻由子さん。
私たちの間に広がるどことなく重い空気を察して、ふたりとも気まずそうに顔を見合わせる。そうやって顔を見合わせる動作が、些細なものなのになぜかやけに印象に残った。
「ごめんね、翔くんちょっと空気読めないところあるの」
「ちょっと麻由子ちゃん、昔はそんなマイペースなとこが好きって言ってくれたじゃん」
「ふふ、時が経つにつれて思うところが出てくることもあるよね」
「待って、その意味深な言い方怖いからやめて」
気づけば、ふたりは私たちなんてそっちのけで顔を見合わせて笑ってる。
たったそれだけの会話で仲がいいのが伝わって、お互いを見つめ合う目には慈愛のようなものが滲んでいて、私にはそのふたりが、とてつもなく美しくて眩しく見えた。