フヘンテキロマネスク
「翔くんと麻由子さんは放っておいて、とりあえず早く選ぼっか」


鈴本くんは何もなかったかのように笑って、メニュー表を指さす。私は素直に頷いてもう一度メニュー表に視線を落とした。




それから私はクレームブリュレ、鈴本くんはガトーショコラを頼んで、会話半分、沈黙半分という微妙な空気の中で食べ進める。


会話を振ってくれるのは鈴本くんで、沈黙を作り出してしまうのは私だった。


気をつかって何気ないことを話してくれる鈴本くんに、ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちが押し寄せてくる。


私も鈴本くんに気をつかわせないように普通にできたらいいのに、別のことに気を取られてまったく言葉が見つからない。



――――私は誰かを新しく好きになることが、こわい。



人の気持ちも、自分の気持ちでさえも簡単に変わっていくとわかってしまったから、終わりを考えて怯えてしまうのだと思う。

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