フヘンテキロマネスク
放課後、ひとつの傘をふたりでさして「こうやって近くにいれるなら雨も悪くないね」って笑ったこと。



初めての遠出でネモフィラ畑まで行ったとき、一緒にネモフィラカレーを食べて青くなった舌を見せあって笑ったこと。


初めて手を繋いだときの汗ばんだ感触。


初めてキスをした後の恥ずかしそうな顔。



流星群みたいに、次々と流れては、消えていく。


さようならって、手を振るみたいに。



――――やっといま、口にすることでようやく本当の意味で私は初恋を終えることができたのかもしれない。思い出が完全に消えることはなくても。



今までありがとう、なんて心の中で言っても届かないけれど、あのとき言えなかった言葉を今なら言える気がした。保科くんが幸せになれますようにって、今ならちゃんと、祈ることができる。
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