フヘンテキロマネスク
「ほんとだって。そんな嘘はつかないよ」
「そ、っか。……ごめん。こんなこと言うのはどうかと思うんだけど、俺いますごい嬉しい」
――――だって俺、やっとマイナススタートから普通のスタート地点に立てたんでしょ?
「だから、すごい嬉しい」
いつも大人っぽく綺麗に笑う鈴本くんだけど、そのときの笑顔は年相応の少年みたいで、淡いオレンジに照らされたその笑顔に、思わず見惚れてしまっていた。
頭の中で警告音が鳴る。
今引き返さないとダメだって。
真っ逆さまに、底なしに落ちてしまう前に、はやく。