フヘンテキロマネスク
「やっと、こっち向いた」
「っ!」
「ねえ、俺のこと嫌い?嫌いならもうこんなことしないよ。でも、嫌いじゃないんならこうやって避けるのやめて。せめて理由を教えてほしい」
声にはもう哀愁は滲んでいないけれど、切実な瞳は本物だと思った。そりゃそうだ。意味もわからず避けられて、理由が気になるのは当たり前だ。
でも、本人に言えるわけもない。いずれ好きになってしまいそうでこわいから避けてます、なんて。
かといって、嫌いだなんてこと、もっと言えるはずない。
「ねえ、真咲」
「…………」
「……まさき、」
縋るように名前を呼ばないでほしい。それだけ、鈴本くんの気持ちの大きさを知ってしまうような気がするから。大きければ大きいほど、失ったときがこわくなるから。