フヘンテキロマネスク
……まあ確かに強引だったのは否定出来ない。真咲の女友達だってみんな名前で呼ばないのに、それを付き合ってすらない俺が呼ぶなんて、でしゃばりすぎてたんだと思う。
それでも、すこしでも真咲の心が軽くなるならって、そんなことを思ってしまったんだよ。
上書きだって、真咲が未練を断ち切れなくて苦しんでるのを見ていられなかったから。
……でも、それももうぜんぶ無駄だったんだな。
「……ごめん、」
謝ったって、時間は巻き戻せやしないけど。
「ごめん」
気持ちもたぶん勘づかれていて、面倒だと思われてるのも知ってるけど、それなのに真咲を好きな気持ちを消せなくて、ごめん。こんなの、言ったってなおさらダサいだけなのに。
駅にようやく着けば、ガヤガヤとした喧騒がやけに耳につく。
「なんで、鈴本くんが謝るの?」
そんな喧騒の中でも、いつも真咲の声だけははっきりと聞こえる。人混みのなかにいたって、すぐに見つけられるよ。さっきだって信号の前で男に絡まれてる真咲を見て心臓が飛び跳ねたんだから。