フヘンテキロマネスク
――――弱かったのは、私も同じだった。
私達はお互い好きだからこそ綺麗なところばかりを見せようとして、そして心が離れてしまった。醜いところも含めて、まるごと愛してもらうことを諦めていたのかもしれない。
今いる昇降口の前も、何度もふたりで歩いたな。確かに私たちは終わってしまったけれど、もう好きじゃなくなったって、それでも思い出の煌めきは完全には消えないと思う。
ただ、それは私が辿ってきた道の一部に過ぎないだけ。
ほんの一部に、なってしまっただけ。
「保科くん、今までありがとう」
一瞬だけ振り向いてそう言えば、保科くんは驚いたように僅かに目を瞠って。
それから、大好きだった優しい笑顔で、
「絶対、幸せになって」
そう言って、手を振った。
「……そんなとこが好きだったよ」なんていう小さい呟きは私の耳に届くことはなかったけれど。