フヘンテキロマネスク


「私はそんな余裕のないとこも含めて、鈴本くんが好きだよ」



離れていた手を手繰り寄せて、顔を覗き込む。その直後で恥ずかしさに襲われてどうしようもなくなってしまったけれど、こういった好きって感情も、不安な感情も、言葉にすることの大切さを知ってしまったから、後悔はしなかった。



「……そうやって不意打ちで言ってくるとこ、ずるい」

「ダメだった?」

「ぜんっぜんダメじゃない、けど、どんどん好きになってくから困る」

「…そうだね、私も困るよ」

「好きになりすぎて、真咲なしじゃ生きられなくなってしまいそうで、そうなってしまって失ったらって思うと、こわくて堪らない……今になってあのときの真咲の言葉が痛いくらいにわかるよ」



こわいけど、でも同じ気持ちを共有できているって思うと、すこしだけ心が軽くなる。



「こわくなったら、不安になったら、なんてことない日のなかでも、ちゃんと言葉にしていけたらいいね」



――――ありのままの、わたしたちで。



時には強がっちゃうときもあるかもしれないけど、そんなときはどうかそっと、包み込んで。

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