フヘンテキロマネスク
「……うん、そうだね」
鈴本くんが私を見つめて、目を細める。愛おしいものを見るような目だと感じたのは、きっと間違いじゃない。
「ね、真咲。俺の名前呼んでよ」
「……いきなりだね」
「いいじゃん。呼んでほしくなったの」
付き合ったその日、鈴本くんは「上書きとか抜きにしたとしても『真咲』って呼びたかったのは本当だから、これからも『くる』じゃなくて『真咲』って呼ばせてほしい」と懇願するような瞳で見つめてきた。
当然いいよって返事したけれど、実際のところ、もうなんだっていいんだと思う。
鈴本くんに名前を呼ばれる度に、想いが伝わってきて、泣きたくなるくらいに心が震えてしまうから。
だから、
「――――渚」
今までの私なら照れくさくてなかなか口にできなかっただろうけど、名前を呼ぶだけで気持ちが伝わるのなら、もうそれでいいやって思った。