フヘンテキロマネスク


「……なんか、渚ってすごい慣れてる感じあるから」

「慣れてる?俺が?」

「だって、さっき手を繋ぐのだって自然だったし。私は緊張したのに余裕そうだから」



だからちょっと、寂しかった。そう言う真咲はきっと知らないんだろう。


指先を掠めるその一瞬、震えてしまわないようにって指先に神経を尖らせていたことも、緩みそうになる口元を隠すのに必死だったことも。


前までの俺なら、こんなダサいところ絶対にバレてたまるか、なんて思ってたけど、なぜか急に、本当のことを言ったら真咲はどんな反応するんだろうって気になった。格好悪いところも、真咲になら見られてもいいかもって。



「余裕なんていつもないよ、真咲の前じゃ。こんな俺は嫌だって思う?」



意地悪な聞き方だったと思う。こんなの、「嫌じゃないよ」を引き出すための誘導尋問のようなものだ。根底にあるヘタレな部分はなかなか治せないらしい。

< 149 / 178 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop