フヘンテキロマネスク


「えっ?いいよ!寒いでしょ?」

「大丈夫だって。それに真咲にあっためてもらうからいーもん」



そう言うと渚は私の手を取って、ぎゅーっと握りしめてくる。手を繋いだところで寒いのは変わらないけど、渚が嬉しそうだからいいや。



「……マフラー、ありがと」



面映ゆい気持ちになりながらマフラーに顔を埋めて、幸せに浸る。だけどそれも一瞬で、鼻腔を擽るバニラの匂いに、あったかくなっていた心が急激に冷めていくのを感じた。



……いつもとは違う匂いだ。こんな甘い匂い、知らない。


気づいてしまえば、平気なふりをすることなんてできなくて。



「真咲?どうしたの?」



黙り込んでしまった私の顔を横から覗き込んできて、視線が合わさる。だけど、思わず逸らしてしまった。


……ああ、やってしまった。今の絶対わざとらしかったよね。


不安になってバレないようにチラリと視線だけを動かして窺ってみれば、バチッと思いっきり目が合って、視線が捕まえられてしまう。
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