フヘンテキロマネスク
急に、確証もないのに疑っている自分が嫌でたまらなくなる。
他の女の子の匂いが移るくらい近くにいたんじゃないかって、そんなことを考えて、自分が自分じゃないみたいに黒い感情が溢れて、呑み込まれてしまいそう。
恋をすると、綺麗な感情だけではいられなくて、そんな自分に嫌気がさす。でも、それでも離れられないから厄介だと思う。
「あ、匂いってもしかしてバニラみたいなやつ?」
ひとりで自己嫌悪に陥っていると、ふいに、思い出したような声が聞こえてきた。気になっていたくせに、言葉の先を聞くのがすこしこわい。
だけど、続けざま吐き出された言葉は予想外だった。
「そういえば香水変えたんだった。真咲よく気づいたね」
「……え?そうなの?」
「うん。冬って甘い系の方がしっくりくるじゃん」
……確かに、それはそうだけど。
安堵すると同時に、ひとりで勝手に勘違いして勝手に嫉妬していた自分が恥ずかしくて、顔が上げられない。こんなこと絶対バレたくない。
でも渚は妙に鋭いから、
「……あ、もしかして、誰かの残り香だって勘違いしたの?」
思いのほか呆気なく見透かされてしまった。