フヘンテキロマネスク
こんな面倒くさい私、渚は嫌にならないのかな。不安に押しつぶされてしまいそうで、ぎゅ、と下唇を噛んだ。ピリ、とした痛みが一瞬走る。けれど冷たい指先が私の唇をなぞって、驚きで力が抜けていく。
「もう、そうやって押し込めないでよ。俺は真咲のことなら面倒とか思わないし、むしろ嫉妬みたいで嬉しかったんだから」
「……嬉しいの?こんなのいちいち言われたら疲れない?」
「うん。ずっと一方通行だったから、今はちゃんと通じあってるんだって実感して嬉しくなる。っていうか、なんなら俺も毎日のように真咲と同じクラスの男子に嫉妬してるんだから同じようなもんだよ。俺だって授業中の真咲見てたい」
「……いや、私を見てる人なんていないよ」
「わかんないじゃん。だって真咲、かわいいもん」
大真面目な顔をしてそんなことを言うから、もう私は太刀打ちできるわけなくて。真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれる渚に、一生適わないんじゃないか、なんて思ってしまう。
恋をすると綺麗な感情だけではいられないから、自分がいやになる。でもその綺麗とは言い難い感情ですら、渚は包み込んでくれて。
そんな渚に好きだと言ってもらえる自分は、もしかしてこの世でいちばん幸せなんじゃないかと錯覚して、きらいだった自分のこともちょっぴり好きになれる。
恋をすると弱くなるって思ってたけど、強くもなれるんだって、はじめて思い知った。