フヘンテキロマネスク

頭では行きたくないと駄々をこねるのに、身体は案外身に染み付いた習慣に従順なようで、学校に行く準備を淡々と熟していく。


失恋したって、傷ついたって、自分が思っている以上に平気で立っていられるみたいだ。想いの重さなんて所詮そんなものなのかとリアルを突きつけられたよう。



「あれ?今日はいつもよりゆっくりじゃない」



いつもなら家を出ようとしている時間に、まだ化粧をしている私を見てお母さんが不思議そうに首を傾げる。



「あー……、ちょっと電車の時間ずらそうかなって」

「そういうことね。てっきりボケてるのかと思ったわ」

「いやさすがにないって」



変に勘ぐられなくてよかった、と胸を撫で下ろす。


今までは保科くんと電車の中で待ち合わせをして一緒に登校していたけど、もう今日からはそれもない。


いつもと同じ時間に乗って鉢合わせてしまっても気まずいから、電車の時間を1本遅らすことにした。


多分保科くんはそんなこと気にしてないだろうな。……私だけこうして意識したままだと思うと、いまだに胸の奥がずしりと痛む。
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