フヘンテキロマネスク
そう、思っていたのに。
「――――真咲?」
いつもとは違う電車の時間。特に考えもせず乗ってしまった3両目は、いつも保科くんと待ち合わせていた車両で。
「……え、」
乗り込んだ瞬間、視界を占領する保科くんの姿に目を瞠った。
車窓から差し込む陽の光を浴びた保科くんが、あまりにもいつも通りでふいに泣きそうになってしまって、咄嗟に目を逸らす。
そういえば、別れてから初めて目が合ったかもしれない。とはいえまだ24時間も経ってないけれど。
でもそれだけ、保科くんの欠けた日常はやけに長ったらしく感じていた。
「……真咲も1本遅らせたんだ」
「うん……。まさか保科くんも同じこと考えてるとは思わなかった」
少しは保科くんも私と同じように意識してたのかな。
馬鹿みたいな考えが頭を過って、そんなわけないか、と心の中で自嘲した。普通に考えて、意識どうこうじゃなくただ会いたくなかっただけ、と考えるのが妥当だ。